マンションは建て替えられるのか

 マンションの建て替えが議論されていますが、今お住みになっているマンションが本当に建て替えが必要なのかどうか一度振り返ってみることも重要です。1960年代から普及してきたマンションは、2015年には623万戸にもなり、その内1981年の新耐震基準以前のマンションは約106万戸でその6から8割方は耐震基準を満たさない可能性が高い建物といわれています。その中で耐震改修されたものは1割程度しかなく、多くは耐震診断さえ行われずにいます。なぜなら、耐震診断を行うとマンションを売却または賃貸するときに、不動産契約書に添付される重要事項説明書に「耐震診断を行い、その結果は耐震性を満たしていません」という旨を記載しなければならないからです。耐震診断を行い耐震基準を満たしていないことが分かり耐震改修できるなら問題はありません。しかし、耐震基準を満たしていないにも関わらず、改修費用の同意がマンション居住者から得られない可能性が高ければ、耐震診断をすること事態が、売却・賃貸時のリスクになってしまうのです。そのようなマンションでは長期修繕計画が作成されていないケースが少なくなく、建物の劣化が激しくなってから資金を集めようとしても一気に一戸あたり数百万円の負担の合意は得られず、結果的に何もせずに放置されるだけとならざるを得ないのが現実なのです。

 さらに40年以上経過したマンションでは、エレベータがなかったり階高が低いため、ドアや天井が低く、改修そのものが不可能なまま陳腐化してしまうケースも少なくありません。

 現実に建て替えが成功した例は全国で200件程度しかなく、その多くは現在より大きな建物が建てられる余裕があったマンションで、その余裕分をデベロッパーに売却するといった、いわば等価交換方式による建て替えなのです。この方法なら居住者の建て替え費用の負担は少なくて済むのです。しかも、その平均建て替え年数は33.4年という調査もあり、今後100万戸近いマンションが築40年を迎えようとしている現在、マンションの建て替えは絶望的ともいえる状況です。

 そこで、政府はマンションに一定率の容積率を付加させ容積率を売却する等価交換方式で建て替えを促進させるという方式を検討していますが、少子化に向かっている日本で更に住宅戸数を増やす政策はいかがなものなのでしょうか。

 マンションを存続させるには大規模修繕や耐震改修により使い続けるか、建物分は償却したとあきらめ、土地を売却する方法しかありません。

 昭和46年以降の建物なら新耐震基準を満たす建物もあり、また耐震改修も十分に可能です。60~70年は使用するという目標をたたて、改修しながら使い続け最後は解体です。建物分が3500万円としても70年で割れば年間50万円です。単純計算ですが木造住宅同様いつかは朽廃するのです。

 長寿命にするには最初から100年建築で建設するべきです。そして、コミュニティ形成をしっかり行い、維持費用を充足させておくが一番です。

 建替えじゃない選択肢 今、老朽マンションの建て替えをどうするかが大きな社会問題になっています。

 

テキスト ボックス: アメリカ・イギリスは、特別決議による「区分所有権の解消制度」がある。フランス・ドイツは、建て替えはもちろん、 区分所有解消を多数決で行うという概念そのものがない。

他国の状況を踏まえ日本では、区分所有法にある“建て替え決議要件”のほかに“区分所有をまとめて売却する要件”を設けるのが良い。建て替え決議同様、一定の賛成があれば全員が区分所有権をまとめて売却するという選択肢をつけておくことは、日本の住宅市場の現状と未来を見越せば、むしろバランスの取れた状況を生み出すのではないか。

現実的には、空き家対策、コンパクトシティ政策とセットで、駅に近いなど一部のマンションのみに容積率のボーナスが与えられ建替えが可能となり、その他のマンションは前述したようにマンション管理組合を“解散”することによって決着を着けることになると筆者は予想している。

“老朽化マンション対策会議”(椎名武雄会長=日本アイ・ビー・エム名誉相談役)は「区分所有権の解消制度創設」を提言している。これは簡単にいえば「建物解体して、土地を売り、お金を山分けして解散」。行政処分の範疇で行うため“違法性があるか”だけが焦点となり、ゴネることが無意味に。わずかなお金を渡されて終わり、となるケースも出そうだ。