IT優位の社会はこのまま続くのか

毎年感じることですが、あらゆる業界で新規の企業というと必ずといってよいくらいIT業そのものかIT業界出身の経営者になっています。  

 私たち自身、毎日パソコンの前に座って仕事をする機会が多く、IT【情報技術 Information Technology 】 の恩恵を受けているともいえなくありません。なぜITを使用しているのかといえば、効率化・正確さの追求に他なりません。

 ITを使用することにより、誰もが正確に効率よい仕事ができれば、スキルのそれほどない人でも、少人数で仕事をこなすことが可能になるため、安い給金で少ない人数でこれまでの仕事と同じ量をこなせるようになるのです。現在、平均給与は下がり、非正規社員が増加しているのはITの普及の結果に他ならないのです。

 私はIT不要論者ではありませんが、どのような技術でも落とし穴がるように、ITにも落とし穴があるはずです。

 ITでの情報伝達は、現実の一部を情報化して伝達しているに過ぎません。皆さんもお分かりのように、ネット上では大きな店構えでも、実際は車庫であったりマンションの一室であったりすることは普通なのがネット販売です。如何にしてそれらしいバーチャル(仮想)を作れるのかがIT技術者のスキルにかかっています。

 仮想と分かっていても信用するかしないかは、使用した人の評価に頼ることになります。評価そのものが、店の信用に絶大な効用を与えます。しかし、意地悪な評価は信用に打撃を与えます。まだ、私たち日本人は匿名の評価を気にしながらネットを利用していますが、ネットの先進国のアメリカでは匿名の評価や評判は信用しません。匿名評価はそれ自体がバーチャルだからです。

 バーチャルも映像では限りなく本物に近い仮想現実が再現できる技術に進化し、マンション販売など実際のビジネスに活用されています。

 このまま進化し続けるとどのような時代になるのでしょうか。

 現代では、分からないことを調べるのにネットで調べるのは常識ですが、ある調査によれば辞書などで調べるのではなく、ネットで調べたことは脳に記憶し難いことが分かっています。

 ネットで調べたものは「分かったつもり」、バーチャルで見たものも「見たつもり」です。 経験則として脳に刻み込まれにくいようです。ITの落とし穴は多くの分野で、この「~したつもり」なのです。

 私の専門の設計分野でも、CAD(コンピュータでの製図)が開発されて以来、熟練者が描いた図面でも、初心者が描いた図面でも同じに見えます。手描きなら熟練者の図面と初心者の図面は一目瞭然ですが、CADでは見分けがつきません。詳細図に至ってはコピペができますから、初心者でも「図面が描けたつもり」になってしまうのです。CADが設計料の低額化に始まり設計者の質の後退につながっているのが現実です。

 一方、新国立競技場の問題となった最初のザハ氏のデザインはCADなどIT技術があったからできるデザインともいえるのです。

 このようにIT技術は、あらゆる面で諸刃の剣なのです。良い目と悪い面を持っていることも「ITの落とし穴」なのです。

 現在は健康ブームですが、実は「便利と楽は健康の敵」なのです。便利が多い現代では、意識して不便を選んで動かないかぎり健康を維持することは難しいのです。

 楽しいこと、楽だったことは記憶に残ることは少なく、大変だったこと、苦しかったことのほうが記憶に残り、思い出となり、他人に話すネタとなることは誰でも経験していることです。

 ITが進化すればするほど、そのような経験に出くわす機会は少なく、仕事も遊びも含めて、情報に追われることの多い毎日になっています。

 コンピュータが出始めたころ、ハイテック・ハイタッチという言葉が流行りました。コンピュータの世界が進化すれば、その逆の人間的な触れ合いも同じように進化してバランスをとるべきだということです。しかし、現実は、ハイテックの進化のスピードが速すぎ、ヒトが追いつけない時代になっています。