日本の林業と木造建築を復活させるCLT工法

「CLT」という建材の名前を聞いたことがないでしょうか。テレビで紹介されたこともあるのですが高層建築にも利用できる木材を張り合わせた構造材のことをいいます。

 今年もスギ花粉で悩まされている方も多いと思いますが、このスギを使用してコンクリ-ト造に代わる建築物を造ろうという試みが2011年頃より検討され、現在ではかなり本格的に使用されてきています。本格的に国を挙げて取り組もうとしている背景には、戦後に大量に植林されたスギやヒノキが50年以上になって、伐採の時期になっているにも関わらず、その多くが使用されていないため、その有効活用が急務の課題になっているのです。

 樹木は樹齢20年頃の成長期に二酸化炭素を最も多く吸収して大きくなりますが、成熟すると二酸化炭素の吸収能力は下がり環境のために存在する意義も低下するため、伐採して再び植林して山を若返らすことが必要なのだそうです。

 しかし、最近の木造住宅では土台以外は「集成材」と呼ばれる、柱や梁が多く使用されています。集成材はコストが安い外国産の樹種が多く使用されるため、ますます国内産の木は余ってしまいます。 

 集成材は下図のように板状にした木材を接着剤で張り合わせて製造したものです。集成材は無垢材のような乾燥などによるねじれや曲がりがなく精度がよいので、多くの木造住宅は工場でコンピュータ制御による切断やホゾ堀り機により加工された集成材を現場で簡単に組み立てる工法が主流です。住宅の建て方の現場を見かけたら、よく見てください。無垢の木材でなく集成材が使用されているのが分かります。

 住宅以外のコンクリートや鉄骨で建てられるビル建築は職人不足などの影響で高止まり常態で、今後は改善されたとしても、大きなコストダウンが期待できるものでもありません。そこで「CLT」の登場により木造のビル建築ができれば、コンクリートで1層を造るのに1ヶ月かかっていたのが1日で造れ、耐震性能も高いとなれば停滞するわが国の林業の救世主、地方再生の起爆剤ともなるのです。

 CLTはクロス・ラミネーテッド・ティンバー(Cross Laminated Timber)と呼ばれる集合材のことで、その名の通り、繊維方向に揃えたラミナと呼ばれる板をクロスに重ねて接着剤で圧着した木材で、日本名は「直交集成材」と称されます。これまでの集成材は木の繊維方向が同じでしたが、ベニア板などの合板と同様に、縦横に積み重ねているのです。合板は丸太を薄くカツラ剥きにした薄板の複合ですがCLTは木材を15~30㎜の厚板を縦横に3層から9層に接着した厚い板状の構造材です。  

 ヨーロッパでは1990年代から使用され3~5階の中層建築やマンションに使用され既に10階建ての高層建築も建築されています。

 強度もコンクリートに劣らず、木材なので断熱性もコンクリートの12倍以上と優れます。構造はツバイフォーと同様の壁構造のため耐震性には優れ木材といえども9~21㎝と厚いため、燃えしろ設計といって、火災時にはあえて燃える分を余分にとり火災で表面が炭化してそれ以上燃えるのを防ぐという方法をとります。ただし、日本では、雨水や湿度対策の検討が重要な課題です。

 まだまだ生産コストが高いのが現状ですが、量産化が進めば、コストダウンは進むはずです。しかし、集成材同様、普及するに従いコストの安い外材を使う羽目になれば元の木阿弥で林業の救世主にはなりません。そのことも含めて「コンクリ-トから木材へ」とパラダイム・シフトの転向で日本の輝きを取り戻せればいいですね。