200年住宅は現在のコンクリ-ト造で可能か?

「200年住宅構想」が提案されていますがご存じですか。

  これまで日本の住宅の建て替えサイクルは約30年といわれアメリカの約55年、イギリスの約77年に比べるとはるかに短いのです。これは、現在世界的に対応が迫られている環境問題を考えると、建物を長く使わなくてはいけないというのは明白な事実で、このような社会背景からの構想だと、誰もが思うことです。もっともなことです。

 しかし、現在を省みるだけでも、公団住宅が34年経過したものは順次建て替えている、年度末になれば相変わらず道路工事が始まるといった、土木建築に依存してきた方策が急に変えられるものなのでしょうか。そもそも、30年サイクルが200年サイクルになれば、建設業者の4分の3は不要になりますので、直接あるいは間接的に建築関連業に携わっている国民が3割くらいはいると思いますので、かなりの人が職業変更をしなければなりません。もっとも「200年住宅構想」は、100年建築よりも200年建築のほうがアッピール力が強いかというイメージとして受け止めればよいのでしょうが・・・。

 そもそも私の事務所では、いつも100年建築を目指していつも設計しています。

 100年建築の建物で最も重要なことは、構造体がしっかりしていることです。

 建物の構造体は大きく木造・鉄骨造と鉄筋コンクリート造に分けられます。木造については、腐りにくく木目の詰まった油分の多い樹木を使用して造りメンテナンスがしっかりしていれば1000年以上の耐久性があることは、奈良時代の寺院が現存している(正確には建物全部が当時のまま現存しているわけではありませんが・・)事実から分かります。1000年の耐久性は必要としないまでも、100年程度は、古民家をみれば誰もが可能であることイメージできるでしょう。

 木造なら、木は50年もすれば立派な大木になりますから、植林のサイクルさえしっかり行っていれば50年ごとに建て替えてもそれほど地球環境に負荷を与えないと思います。しかし、東京を初めとする大都市では、都市の不燃化という政策のもと、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建物が多く建てられるようになりました。「200年住宅構想」もどちらかというと、鉄骨造や鉄筋コンクリート造をイメージしていると思われるため、ここでは鉄骨造や鉄筋コンクリート造の耐久性について考えてみたいと思います。

 まず鉄骨造についてですが、鉄骨造はメンテナンスをしっかりしておけば、100年どころか1000年でも何ともないと考えられます。しかし、鉄骨の骨組みの中では生活ができませんから、周りを壁で覆わなければなりません。そのため鉄骨の建物は外壁の耐久性により耐用年限は決まると言ってよいでしょう。鉄骨造は風や地震でコンクリート造に比べて大きく動きますので、外壁の接合部は動きに追従できるように造られています。追従できるように造ると、耐久性が短い柔らかいものか、動きに追従できる複雑な形で作らざるを得ません。そのため、鉄骨造を長期維持するには、動く部分のメンテナンスが欠かせません。そのメンテナンスが不十分であると、急激に劣化が始まり耐用年限は短期間になってしまいます。

 一方、鉄筋コンクリートは、よほど大きな地震でない限り構造体が大きく動くことはありません。また、構造体も基本的にはシームレスですから、メンテナンスが多少おろそかでも、鉄骨のような急激な劣化が始まることはありません。

 しかし、コンクリートそのものの劣化には十分注意しなければなりません。なぜなら、我が国のコンクリートの品質は諸外国に比べて劣っているとみてよいからです。

 日本一流の建築設計事務所が国内レベルのコンクリート仕様で設計をして納品した時、低開発国側に「これではダメだとはねつけられた」という逸話があります。日本の現状はこんなレベルの貧コン(コンクリート)国なのです。 東南アジアを低開発国とか言っていましたが、もはやそれらの国々のコンクリートは、我が国を越えてしまっているとのことです。それでは、日本のコンクリートはどこがいけないのでしょうか。

 皆さんも、「コンクリート打ち」という言葉は知っていると思います。生コン車がきてポンプ車にコンクリートを入れ、そこから長いホースでコンクリートを圧送するのです。どこが「コンクリート打ち」なのでしょうか。

 コンクリートは打ち込むもので、打設とも言います。しかし、現実はコンクリートを流し込むというほうが日本の現状にはふさわしいでしょう。

 本来は、コンクリートは振動を与えたり、つき込んだり、打ち込んだりするものなのです。そうすることで密実なコンクリートが形成され、収縮やひび割れの少ないコンクリートができるのです。間違っても流し込むものではありません。

 ではなぜ流しているのかといえば、施工がし易いからです。品質よりも施工性を重視したコンクリートの品質でOKだという基準になっているのです。海外ではこのような柔らかい、すなわち水の多いコンクリートではOKになりません。

 コンクリートは、砂・砂利・セメント・水の4つをミックスすることで成り立っています。コンクリートを流して施工したときも、コンクリートが固まった後でも形は変わりません。それではセメントの重さの6割近く入っていた水はどうなったのでしょうか。そうです、セメントと化学反応して成分を変えた以外の水は蒸発したのです。この化学反応に必要な最低限の水はセメントの40%程度あればよく、理論的には25%位までは

立派なコンクリートができるようです。

 それでは100年も200年も耐久性のあるコンクリートはどうすれば造れるのでしょうか。

 そうです。水の量を如何に抑えるかが重要なポイントです。鉄筋コンクリート造において、コンクリートの究極の働きは、次の2点に尽きます。

 (1)所定の圧縮強さを保持し続けていること。

 (2)鋼材と一体化をなして錆を発生させないでい

   ること。

 この究極の働きを達成させるために、ひび割れ、通気性、透湿性を始めとする多くの現象を起こさせないようにしなければならないのです。

 逆に言うと、コンクリート打ち込み後からではどうすることもできず、何の手だても打つことができないということです。しかし非常に悲しい現象として、砂利と砂とセメントと水を適当に混ぜ合わせると、どんな方法でもほとんどがコンクリートとして固まってしまうということです。触れれば硬く感じるし、一見普通のコンクリートに見えるし、水が多いコンクリートでも、所定の構造強度以上であるため、詳しく専門的に調べないことには、良質なコンクリートであるかどうか全く判らないのです。この現実が、施工性重視の我が国のコンクリート造となっているのです。水が少なく硬いパサパサしたコンクリート施工性が悪いとジャンカができてしまいますが、水の替わりに「流動化剤」というものを混入することで解決できます。しかし、水は安く流動化剤は比較にならない位に高価なものです 。そのため、水量を多くして対応しているのです。

   一方、水量を極端に少なくした高強度コンクリートと高強度鉄筋を使用して多くの鉄筋コンクリート造の超高層マンションが建設されていますが、高強度コンクリートの何十年先の品質がどう保たれているのか実証もされていない上、工事管理も果たして十分なのかという私の疑問がどうしても頭をよぎります。5倍の強度のコンクリートを使用した場合、通常のコンクリートの場合に比べて5倍に欠陥は増幅されます。たとえば通常のコンクリートで1の欠陥(コンクリートが十分にいきわたっていないジャンカ部分など)は、5の欠陥となるのです。その当たりの品質管理が十分にされていないとわずかな欠陥が重大な欠陥として現れてくるのです。

 通常のコンクリートでも、水量を多くしないで施工を十分に注意して行えば「100年コンクリート」は確保できます。その証拠に1908年(明治41年)に工事された小樽市高島の小樽港北防波堤は海水と寒風に曝されながらも厳然として今も存在しているのです。コンクリート構造物に慣れていない昔だからこそ、一生懸命、注意深く施工し100年コンクリートを実現できたのです。